2008年8月4日月曜日

殿山②



 水前寺がこの地下壕の闇に身を潜めて、既に三日目になる。
 隣の鷹座山尾根から地下壕の中を歩いてきた。全行程の八割以上は地面の下だ。すなわち、危険なのは最初と最後である。まずは、いかにして地下壕の入り口にまでたどり着くかが問題だった。殿山を中心とする偏執的な警戒網は鷹座山尾根にも及んでいるはずだったし、どうにかして連中の目をかわす手を考えなくてはならない。ルート立案において、水前寺が最も時間をかけたのもこの点である。
 勝算は、やはりあの古い地図だった。…平林の旧木材輸送路から鷹座山尾根に入り、瀬戸川源流の渓谷を踏破し、輪堂の砂防ダムへと抜け、地下壕の入り口に至るという複雑怪奇なルートはまさに、水前寺にしか見えない道筋だったのだ。

平林

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